
執筆者
K.S.
3Dによる表現方法

近年のコンピュータグラフィックスやコンピュータビジョンの分野で急速に注目を集めている技術の一つに、3D Gaussian Splatting(3DGS)があります。
これは2023年に発表された比較的新しい3次元シーン表現手法であり、高品質なレンダリングと高速な描画を両立したことで大きな注目を集めました。
3DGSを理解するためには、まず「コンピュータは現実世界をどのように3次元として表現しているのか」を考える必要があります。
従来の3D表現
コンピュータグラフィックスでは長年、ポリゴンが使われてきました。
ゲームやCADで利用される3Dモデルは、無数の三角形の集合として物体を表現しています。
例えば人間の顔も、
・頂点
・辺
・三角形
の組み合わせによって形状が構築されています。
この方式は非常に効率的ですが、現実世界をそのまま取り込む場合には課題があります。
複雑な植物や髪の毛、反射、半透明な物体などを正確に再現するには膨大なポリゴン数が必要になります。
そこで登場したのがNeRF(Neural Radiance Fields)です。
NeRFはニューラルネットワークを使って空間そのものを学習し、どの視点から見ても自然な画像を生成できる画期的な技術でした。
しかしNeRFには弱点もありました。
高品質な描画が可能な反面、
・学習時間が長い
・レンダリングが重い
・リアルタイム表示が難しい
という問題を抱えており、そこで登場したのが3DGSです。
Gaussian Splatting

Gaussianとは何か
3DGSの名前に含まれるGaussian(ガウシアン)は統計学でいうガウス分布を意味します。
しかし3DGSでは難しく考える必要はありません。
イメージとしては、
『空間中に存在するぼんやりした色付きの雲』です。
従来のポリゴンが硬い三角形で世界を作るのに対し、3DGSは無数の半透明な色付き粒子で世界を作ります。
例えば木を表現する場合、
・幹を構成するガウシアン
・葉を構成するガウシアン
・光を反射するガウシアン
を大量に配置します。
そしてそれらを重ね合わせることでシーン全体を表現します。
Splattingとは何か
Splattingは「塗りつける」「飛び散らせる」といった意味を持つ言葉です。
描画時には各ガウシアンをスクリーン上へ投影します。
その際、点として描くのではなく、インクを紙に落としたような
ぼんやりした楕円として描画します。
『これが「スプラット(splat)」です。』
無数のスプラットを重ねることで、最終的な画像が生成されます。
この処理はGPUとの相性が非常によく、高速に実行できます。
なぜ高品質なのか
3DGSの最大の特徴は、現実世界の連続性を自然に表現できることにあります。
現実の物体表面は数学的に完全な三角形ではありません。
また、
・半透明
・ぼけ
・微細な凹凸
・光の散乱
といった現象が存在します。
ガウシアンはもともと境界が曖昧な表現なので、こうした現象を自然に近い形で再現できます。
特に植物や毛髪のような複雑な構造では大きな効果を発揮します。
学習の流れ
3DGSでは通常、多数の写真から3次元空間を構築します。
まず、
異なる角度から撮影された画像群を用意します。
次にStructure from Motion(SfM)などの技術を用いて、
・カメラ位置
・おおまかな点群
を推定します。
その後、各点をガウシアンへ変換し、
・位置
・色
・大きさ
・向き
・不透明度
などのパラメータを最適化していきます。
学習が進むにつれて、実際の写真とレンダリング結果の差が小さくなるようにガウシアン群が調整されます。
結果として、シーン全体がガウシアンの集合として記述されます。
3DGSの注目点・本質

なぜ注目されているのか
3DGSが注目されている理由は、品質と速度の両立です。
NeRFでは数秒かかっていた描画をリアルタイムに近い速度で実行できます。
さらに学習時間も大幅に短縮されました。
これは実用上非常に大きな意味を持ちます。
例えば、
・VR空間生成
・デジタルツイン
・文化財保存
・建築設計
・映画制作
・ロボティクス
などの分野で活用が期待されています。
スマートフォンで撮影した写真から空間を再構築し、その場を自由視点で歩き回れる未来も現実味を帯びています。
3DGSの本質
技術的な詳細を離れて考えると、3DGSは興味深い思想を持っています。
従来のCGは「形状」を中心に世界を表現してきました。
まず物体の形を定義し、その上に色や質感を貼り付けます。
しかし3DGSは逆です。
世界を厳密な形状として定義するのではなく、『見え方そのものを空間中に分散して保存する』という発想を採用しています。
これはある意味で、人間の知覚に近い考え方とも言えます。
私たちは現実世界を三角形の集合として認識しているわけではありません。
光の分布や質感、奥行きの手掛かりから世界を知覚しています。
3DGSは、そうした「見え」を直接扱おうとする技術なのです。
おわりに
3D Gaussian Splattingは、ポリゴンベースCGとNeRFの長所を取り込みながら、新しい3次元表現の方向性を示した技術です。
その本質は、世界を硬い幾何学としてではなく、無数の確率的な粒子の集合として記述することにあります。
これは単なる高速レンダリング技術ではありません。
コンピュータが現実世界をどのように表現するべきかという問いに対する、新しい答えの一つです。
今後、空間コンピューティングやデジタルツインの発展とともに、3DGSは3次元情報処理の基盤技術の一つになっていく可能性があります。













